人工透析中の食事の注意点・体験談
ご家族やご自身が人工透析治療を始めることになると、食事をどうしたら良いか悩みが増えます。
- 透析を開始したら食事は何を食べたら良いのか?
- 水分と塩分、カリウム量が心配でどう調理したら良いかわからない
- 今の食事で合っているのかわからない
など、透析患者にとって今後の食生活が不安に感じる方も多いと思います。
基本的には病院からのアドバイスや冊子などの資料をもらいつつ食事療法を実践するのが一般的ですが、初めてのことで不安も増える一方。
この記事を書いている私には、糖尿病を患っている父がいます。
現在は人工透析を週3回受けている血液透析患者で、そのため食事療法とは父共々、長い付き合いとなりました。
この記事では実際に父が取り組んでいる食事療法や医師からのアドバイス、病院からの冊子などを元に人工透析中の食事についての体験談や食事のポイント、注意点をまとめました。
人工透析患者に食事療法が必要な理由は?
腎臓の機能が低下すると、血液の濾過機能が低下し、本来体外に排出できる老廃物や余分な栄養素などの排泄ができなくなってしまいます。
正常に分解・排出できないものを多く摂取してしまうと、血液中に蓄積し体調不良を起こすリスクが高まります。
腎臓の機能は一度失われると回復が難しく、そのため、腎不全になってしまうと人工透析などの対処が必要になります。
そして人工透析をしている人にとっての食事療法は、弱った状態の腎臓に負担をかけず、現在の機能に応じた食事を摂ることが目的となっています。
制限が必要な栄養はありますが、その上で必要なエネルギーを確保しなくては、体力の低下・免疫力の低下などで体調を崩してしまったり、合併症などの心配も出てきます。
透析者の食事ポイント・注意点
透析者の食事療法の基本は
となっています。
水分制限~飲み水やうがいも注意!
透析者にとって水分の摂りすぎは腎臓に負担をかけてしまう要因となります。
水分を排泄する能力が低下していると、尿とともに毒素を体外に出すことができません。
通常では尿や汗と共に余分な水分と毒素を排除しているため、健康な状態が保たれています。
水分摂取の制限があることは、普段の生活において非常に不便なことではありますが、なるべく体に負担をかけないように管理する必要があります。
水分は料理にも含まれるため、飲み水と食事中の水分量を把握する必要があります。
人によってはうがいに使用する水にも注意しなくてはいけません。
父の場合は透析開始当初は「1日1,000ccを目安に」と言われていました。
食事では
- 汁物やお鍋を食べる時には他の時間帯の食事で水分量を調整
- 主食にパンを取り入れて水分を控える
- 焼き物、炒め物、揚げ物などで水分を控える
- 飲み水は目盛り付きのコップに変更、湯のみ茶碗のサイズを小さくする
- 果汁の多い果物を食べすぎない
といった対応をしていました。
他にも調味料の醤油や酒、みりん、酢、ソース、ケチャップも水分が含まれますので使用量には注意が必要です。
食塩を控える・塩分制限が必要な理由は?
塩分を摂りすぎてしまうと喉が乾きやすくなり、水を飲みたくなります。
カリウム量を制限する透析者にとってナトリウムの摂りすぎは、体に水分が溜まり、むくみや高血圧につながる他、血液透析の場合、血液中の水分が多いと透析の除水量が増えてしまいます。
それによって透析中に血圧が下がるなど体調悪化に繋がると医師からのお話がありました。
体重増加にもつながるため普段から塩分の多い食事をしている人は塩分制限が必須となります。
減塩の基本は
- 1日に摂取する食塩量は1日6g以下が目安
- おかずの中で塩分を使うおかずを決めて味の満足度を高めて、他のおかずの塩分を控える
- 辛味や酸味で味にアクセントを付ける(こしょう・わさび・しょうが・にんにく・レモン・ゆずなど)
- 出汁を使い旨味をアップ’(かつおぶし・昆布・鶏ガラ・干し椎茸など)
カリウム制限~カリウムが多い食品に注意
カリウムは腎臓で排泄されます。腎機能が低下している場合、尿として排出することができなくなってしまうため摂取量に注意が必要なミネラルです。
カリウムの摂りすぎは血液中のカリウム濃度が高い状態になり、高カリウム血症により不整脈などの危険性が増すため、腎疾患の方が注意しなくてはいけない症状とされています。
カリウムは野菜や果物、豆類、イモ類、海藻類など身近な食材の多くに含まれているため、食べる量を減らすだけでなく、調理では茹でる、切って水にさらすなどの工夫が必要です。
一般的には野菜の摂取量を1日200gに設定されます。野菜の中でもイモ類や果物はカリウムが豊富なので注意が必要です。
果物缶が好きな人は缶に入っているシロップにもカリウムが溶け出しているので飲まないなどの意識が必要。
ただし、カリウムの摂取量については本人の血液状況によって変化します。
リン制限が必要な理由は?
ミネラルの一種であるリンは骨や歯の発達などに関わります。
食事などから摂ると十二指腸や大腸などで吸収され、最終的に尿として排出されるのですが、腎臓機能が低下していると濾過、排泄がスムーズにいかず、血液中に増えてしまいます。
リンの濃度が高まるリン血症になってしまうと「骨が弱くなる」「血管に石灰が沈着する」など、動脈硬化などのリスクが高まるため注意が必要と指導を受けました。
リンはタンパク質の代謝産物でもあるため、食事でタンパク質を摂ることでリンの摂取量も高くなってしまいます。
そのため、タンパク質を摂りながらリンの摂取量を控えるためにタンパク質調整食品などでリンの含有量を抑えた調味料や食品を利用することもアドバイスされます。
インスタント食品や乳製品、卵、魚卵、加工食品などはリンが多い食品なので注意しましょう。
エネルギーの確保~カロリーは増やす必要がある場合も
タンパク質やカリウム・塩分の制限があると、食べられるおかずが少ない、もしくは作れるおかずに限りが出てきてしまい、食事量が減ってしまうこともあります。
さらにエネルギーの元となる炭水化物・糖質はごはんやパン、麺類などの主食が多いため、これだけを沢山食べるというのは難しいです。
エネルギーが不足してしまうと体を動かす力や考える力にも良くありませんので、1日の中で適切なエネルギー量を摂ることが大切。
肥満は健康によくありませんが、透析をしている人はエネルギー不足や栄養不足になりやすいため、体重減少を防ぐこともポイントです。
エネルギー確保は
- 1日3食を守る
- 主食以外にエネルギー源となる脂質でカバー(揚げ物や天ぷら、炒めものなど)
- 間食、おやつなどの補食でカバーする
1日の適正なエネルギーの摂取量目安は
体重1kgあたり30~35kcal
例)体重65kgの方で1日1950~2275kcal
とのことでした。
人工透析を初めて体重減少が見られる場合にはカロリー摂取量を増やすことをアドバイスされます。
1日の中で良質なタンパク質を適正量摂る
タンパク質は体を構成するための栄養素です。
筋肉や内蔵、血管、血液、細胞などほとんどの場所で必要となるのですが、前述したように透析者にとってはタンパク質を摂ることでリンの摂取量も増えてしまうため、量よりも質でしっかりとタンパク質を摂る必要があります。
肉や魚だけでなく、大豆やキノコなどの食品にもタンパク質は含まれます。
また主食のご飯にもタンパク質が含まれていますので、これら食品のタンパク質量を調整しながら、摂りすぎに注意しつつ、必要な量を摂ることが重要となっています。
病院からは食事量を減らすよりもタンパク質調整食品(低たんぱくご飯や麺類、小麦粉、調味料)も活用しながら、エネルギーとタンパク質両方が摂れるようなおかずや食品を3食に加えて間食でも補うことも大切とアドバイスを受けました。
低栄養にも注意が必要
また、食事制限がうまく行かないと低栄養になり、
- 体を動かす力が低下
- 食欲自体が減ってしまう
- 噛む力・飲み込む力の低下
といったことがあるため、食事制限をしながら必要な栄養やエネルギーは確保しなくてはいけません。
特に透析を受けていると、食欲不振や透析によって血液の栄養素の除去といった要因などでエネルギー摂取が足りないケースが出てきます。
食事制限がちゃんとできているかの確認は病院での体重測定や蓄尿検査などによって判断されます。
人工透析をしている家族の食事制限の体験談
父は現在、週3回、1回4時間ほどの血液透析を受ける生活をしています。
人工透析には主に血液透析と腹膜透析があり、父が受けている血液透析は体内の血液を体外に出してダイアライザーと言う透析器に通すことで腎臓の代わりに血液中の老廃物や余分な水分を取り除き、浄化させて体内に戻す透析療法です。
普段は自宅で3食食べる、人工透析の日は昼食を病院で食べています。
そんな父の食生活は
- 塩分を控えることが一番重要
- 水分制限は無し
- カリウム制限をしていたものの、現在はカリウムが不足して薬を出してもらうこともある
- お菓子などの間食を控えている
という状況です。特に気をつけているのは塩分の摂り方です。
調味料で味付けに工夫が基本
透析中の食事の基本は減塩なので、調味料は醤油や味噌の使用量を減らすだけでなく、他の調味料、香辛料を使って味にメリハリをつけることが食事を制限しながら食べる楽しみを感じてもらうポイントにしています。
- 酸味は酢・レモン・ゆず・梅
- 辛味はカレー粉・わさび・からし・山椒
などを使うことでただ味が薄いおかずにならないように配慮しています。
カロリーやタンパク質の摂り方
年齢と共に食が細くなってきているため、カロリー、タンパク質が不足しやすく、お米などの主食はしっかり食べるように意識しているようです。
お米・麺類・パンなどをその時の体調や食欲に合わせて食べています。
麺類:うどん、そうめん、ひやむぎなど
パン:菓子パン:サンドウィッチ(ハム)
魚、ヨーグルト、納豆、豆腐、豆類など大豆製品を中心に食べています。他にも、きのこ、海藻なども献立のバリエーションのために使用しています。
魚ではブリ、さば、さんまを食べる機会が多く、干し魚、塩鮭、塩漬けや干物類などの処理をされたものは塩分が多いので控えています。まぐろやかつおはリンが多いため食べすぎに注意しなくてはいけません。
肉は歯が弱いため食べる機会が少ないとのこと。
また、卵はリンが高めなので食べても1日1個未満です。だし巻き卵2切れ、スクランブルエッグ半量ほどにしています。
他にもハムやウインナー、ソーセージ、ちくわといった加工食品は塩分やリンも多いので避けています。
カリウムの摂り方
人工透析患者にとってカリウムの摂り方は注意が必要です。
父の場合は透析開始時は制限していましたが、現在は逆にカリウム不足な傾向にあるため薬を処方してもらうこともありますので、カリウムの摂り方は個人差があるということがわかります。
野菜
野菜についてはカリウムの摂取量に気をつけて茹でたり、湯通し、水にさらすなどの調理をしたものを食べています。
例えば
- カリウムが多いほうれん草や小松菜:切って水にさらしておく、おひたしにして食べる量に気をつける
- ブロッコリー:茹でることでカリウム量が半分ほどに減るのでしっかり茹でる
- カリウムが野菜の中で少なめのたまねぎは味噌汁の具として使用
- ごぼうは切ってから茹でるとカリウムが減る
また、さつまいもやじゃがいも、ごぼうなどはカリウム量が多いのですが不溶性食物繊維が多いため腸内環境を整えるのに食べる量を調整しながら献立に取り入れています。
海藻類も食物繊維が多いのでカットわかめなどを使って補っています。
これらは病院の栄養士さんや透析レシピなどを参考にしていました。
果物
カリウムが多いキウイやバナナは避け、みかんやりんごなどを食べることが多いです。果物には果糖が含まれているので手軽にエネルギー補給ができることもあり、食欲が無い時にみかん1個を食べるといった形で栄養面を補助しています。
人工透析中のお菓子
食欲があまり無い時などは塩分が無い、糖質が摂れるおやつを食べることで確保しています。
例えば
- コーヒーゼリー
- カステラ
- プリン
- クッキー
- まんじゅう
といった主食にかわって炭水化物とタンパク質が摂れるようなお菓子やデザートを摂取量に合わせて選んでいます。
ただし、おやつの中にはカリウムやリンが多いお菓子もあるので、その点は気をつけています。
カリウムやリンが多いお菓子例(100gあたり)
お菓子の種類(100gあたり) | カリウム | リン |
---|---|---|
ミルクチョコレート・板チョコ1枚 | 440mg | 240mg |
かりんとう | 310mg | 65mg |
シュークリーム | 100mg | 130mg |
チョコレートはカリウムとリンが多いお菓子です。
また芋チップスなどもさつまいもを使用しているものはカリウムが多くなります。
他にも卵はリンが高めということもあり、シュークリームなどカスタードクリームを使っているスイーツは食べる量に気をつける必要があります。
父は食べませんが、ポテトチップスは塩分、カリウムがかなり多いため避けることをアドバイスされました。
他にもアイスを選ぶ時には牛乳などのリンが多い原材料を使用していることもあるのでリンが少なめな果実や氷を使用したシャーベットを食べています。
外食
外食は基本的に避ける方が望ましいです。
外食の多くは比較的塩分が多く、人工透析中の方が食するには向かない場合が多いです。
人工透析をした当日の食事
個人差はあるかと思いますが、人工透析をした当日は体調が優れない日があります。そのため食欲も沸かないといったことがあります。
この場合、基本となる人工透析の食事通りに食べることが難しいため、手軽に栄養が摂れるアイテムを加えてエネルギーとタンパク質を補給し、体調が戻ってきてから食事をすることが多いです。
栄養補助食品で効率良くエネルギー確保
透析患者にとってエネルギーの確保は重要なテーマとなります。ですが食欲が無い時にご飯などを食べるのが難しい時もあります。
そんな時にはおやつなどの補食が手軽ですが、他にもゼリーなどの栄養補助食品を活用することで少量で必要なエネルギーや栄養量を補えるため利用していました。
短期的に宅配食を活用
いつもは母や私が食事の準備をしていますが、以前、母が病気で入院をしてしまい、離れて暮らす父の食事作りが行き届かないことがありました。
そんな時には1週間、2週間といった短期的な宅配食サービスの利用がとても便利。
毎日お届けの宅配弁当なら安否確認にも繋がりますし、通販の冷凍弁当なら賞味期限に気を使わう必要が無いので、体調が良くない日は簡単なもので済ませるといったことを本人の食欲や生活スタイルに合わせることができます。
市販の冷凍食品の場合、糖質やカロリーに配慮した商品は増えていますが、カリウムや特にリンの量に配慮した食品は中々手に入りません。
そのため、食事制限をサポートしてくれる宅配食を利用することで栄養バランスに配慮しながら、カリウムやリン、タンパク質の管理がしやすくなります。
実際に宅配食を利用していた時期の父の体調は良く、病院でも数値の面で指摘されることはありませんでした。
また、自分で作るとワンパターンになりやすい献立も宅配食ならバリエーションも豊富なので、飽きずに色々な食事が楽しめると、父も満足していました。
人工透析中の食事は食べる人はもちろん、作る人の負担も大きいです。そのため、余計なストレスを感じずに健康維持、栄養管理ができる宅配食の活用はとても助かるサービスです。
特におすすめなのは、ウェルネスダイニングの制限食です。
腎臓に不安がある方にも愛用者が多いのでおすすめ。
まとめ・透析中におすすめの宅配食
人工透析を受けている人の食事のポイントや体験談をご紹介しました。
透析を受けているからといっても体の状態は人それぞれです。
自身やご家族の体調や健康状態に合わせて必要な栄養を摂り、少しでも元気に過ごせるように取り組むことが大切だと実感しています。
透析治療は補助が充実していているので、治療費は月額で約40万円ほど。
そこから健康保険や高額療養費制度などを使うことで月に1万円ほどの自己負担になることが多いです。
ここから給付金や助成制度などもあるので自己負担金は少ないですが、それでも毎月多少の出費があることになります。
そんな経済的な負担に加えて食事作りで悩んでしまうと心労も増します。
食事作りが負担になっている人はお医者さんと相談の上、1日1食だけでも宅配食に置き換えるなどすることで、随分と食事作りの負担は減りますし、自分で作る食事のアイデアにもなります。
特に塩分コントロールを徹底するために腎臓病食などを扱っている宅配食サービスは、カリウムとリンを制限しながら良質なタンパク質・エネルギー確保ができるタンパク質・塩分制限食があります。
初めての制限食でも無理なく食生活に取り入れられる便利なサービスなので、人工透析中の食事管理のサポートとして検討してみるのも良いのではないでしょうか。
【出典・参考】厚生労働省「腎疾患対策」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/jinshikkan/